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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)587号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小野寺公兵の上告理由について。

原判決の確定した事実によれば、上告人は第二次大戦において戦災により住居を失い、昭和二二年三、四月頃上告人所有の本件家屋外三棟の建物の賃借人であつた被上告人及び訴外増田貢作、渡辺某、四谷某に対し、そのいずれか一棟の建物の明渡を申入れた結果、同年一一月頃渡辺某の賃借していた建物の明渡を受けてこれに居住するに至つたのであり、この建物は二階建で八室を有するものであるというのである。してみれば、上告人は自ら居住する必要のため賃貸中の本件家屋外三棟の建物の賃借人四名に対し、いずれか一棟の建物の明渡を求める趣旨で解約の申入れをしたことが明らかであるから、原判決は右解約の申入れは、上告人居住の必要を満たすに足りる一棟の建物が明け渡されれば、他の建物についての解約申入れの効果はこれを失わしめる趣旨においてなされたものと判断したことが窺われる。そして原判決は、昭和二二年一一月頃上告人は渡辺某賃借の建物の明渡を受け、これに居住することとなつたこと、右建物は上告人及び家族の居住に不自由はないことを認定しているので、上告人が昭和二二年三、四月頃本件建物につき被上告人に対してなした解約申入れの効果は、渡辺某の建物明渡によりその効力を失つたものというべきである。原判決が、渡辺某の上告人現住家屋の明渡により解約申入れの目的を達したものと判示したことは、用語やや簡に過ぎ適切を欠く嫌いがあるけれども、以上に説明した趣旨を判示したものと解し得られるので、原判決の判断は結局において正当であつて、原判決には所論のような違法はないから、論旨は採用することができない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔)

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